なんとか世界に縋りつくために職場から片道一時間半程度の場所にあえて引越してから数箇月が経ったのを明け方の寒さで実感する。嘘。カレンダー見るたびに今年の終わりを考えているからそんなことはない。
というのはどうでもいいことで、今回言いたいのはこの新居の六畳間(ろくじょうかん)の、机の前の、壁に貼ってある一枚の紙についてだ。
暦上での夏(俺自身の夏は10年前くらいにガチで終わったと思うんで回りくどく常に言っていきたい。リアルでも枕言葉に、まぁ、俺の夏はずっと昔に終わったんで暦上の、あくまでも嘘の季節としての夏なのですが――、と前作主人公ばりに付け加えている。ちなクソキモいらしい)、そいつにある言葉を書いた。
シンプルで、起き抜け2秒の脳みその状態でしか書けない言葉だ。つまり前向きな言葉。手軽な祝福。「We are the world」に手を叩きながら乱入できる精神状態で繰り出せる文言。
机に向かう度にそいつを見て、ちょっと笑っていた。素で「お前マジかよ?」と思わざるを得ないからだ。
それで日々、焼き鳥屋の秘伝のタレがごとく、その紙に今抱いている忘れてはならないだろう言葉を付け足していった。
ちなみに今ちらりと目を向けるとパッと目につくのは「脱出」。
先程秘伝のタレが云々といらない喩えを持ってきたが、まさにそこに宿る秘伝のように最初の言葉は埋もれていきのちにゼロに近くなっていくらしかった。そういう意味合いで喩えが成立してしまった。
夜、その貼り紙を見ると不思議な気持ちになる。
前向きな言葉を日々じっと見ていると、人間は手軽に鬱病(ニセ)になれるんだって――。
この気持ちを味わってほしいんで、深夜に目を閉じて、いつもどおりの諦観のまま、限りなく素面で……
ダイアローグの「人生イージー?」を聴いてみてください。