お疲れ様です。暇です。
早速ですが、あの約束された名作、『サクラノ刻』をプレイさせていただきました。
僕自身の正直な感触としては前作の『サクラノ詩』を越えることはありませんでしたが、もし前作をプレイしているのなら”やるべき”な作品であることは間違いないし、実際何度もうるっときたし実際泣きました。
メーカーであるケロ枕さんの作品群、『終ノ空』『素晴らしき日々~不連続存在~』から『サクラノ詩』。ネットの空気やレビューの感じを見るに哲学的で深淵な内容なんでしょ? と敬遠される方もいると思うし僕もビビってた節はありますが、感動は理解を越えてくれるので、ぜひ安心してやってみてほしいです。
どうでもいいことですが、なぜ越えなかったのかという理由は、前作の『サクラノ詩』がマジで大好きだということもあり、期待値を上げすぎたのもあると思います。本当にしぶらず正気のまま初回盤に一万越えを突っ込めるくらい、僕にはめったにないくらい楽しみにしていた作品だったので。それでも確実にやれてよかったし、読み進めてるときには幸福を感じていました。八年という月日は、これだけ綺麗なグラフィックや印象的な演出、劇中絵画をもってくるのに必要な時間だと思えました。
しかしながら、僕は『サクラノ刻』をやるために『サクラノ詩』もやってくれ!
ということを声を大にして言いまくりたかったのですが、『サクラノ詩』をやったなら『サクラノ刻』もやってくれ! という言葉が適切かなあと思います。
とはいえ、これ以上のエロゲがこれから生まれてくるのか、と言われると……。
以下、ネタバレ有り感想です。
哲学周りの話は数々の素晴らしい考察や解説をしてくれる方々がいるので言いませんが、というか頭が良くないので言えませんが、むしろかっこつけてすみませんでしたが、よかったな~と思ったことを言わせてください。
全体
全体を通して、すべての人のために語ってくれたことが非常に良かったと思います。
物語を牽引していく天才はもちろん、才人、凡人、それにとどまらずどうしようもない人間(トーマス)や弱者に寄り添ってくれる美を描いてくれたことに感謝です。
直接的にも僕たちの話にしてくれるんだなと。
とはいえ、片貝が実は院卒で特許とって会社起こして失敗していて「うだつが上がらなく」なっており「草薙、お前はいいよなぁ~」と期間工を”演じていた”のにはマジで置き去りにされた気分でしたが……。
Ⅰ
面白かったです。
まさかここまで本間麗華が可愛く感じられるとは思っていませんでした。
この可愛さの描き方は非常に好きで、大多数としてみたら最悪でしかないんだけど、誰かからみればそんなことはない、というような。超不格好な多面体、嫌われる面がデカすぎでしょ……、良い面小さすぎでしょ……みたいな。
それがキャラクターとして成立しているのが好きなんですよね、美というテーマと信念がなせる技でした。
最後の『本物』への慟哭、全編通しても上位の好きです。
まぁ、Ⅴで多くの人が許しちゃいそうなシーンありますが。
Ⅱ
一番好きです。
マジで。
シリアスな作品のこういう部分が好きで、一生続いてほしいと思う。
最後に新弓張美術部と手をつないでの直哉の独白は言葉にできないくらい良かった。
Ⅲ 心鈴ルート
唯一の生徒攻略キャラクターですが、生徒はあくまで属性に過ぎず、『芸術家』としてのキャラでしたね。虚無を見つけて、その先に美を見つけて、そして恋を見つける、あるいは見つけられる。
これこそ「ややご都合主義のハッピーエンドで終る」、って感じを受けました。
前作の稟ルートで感じた普通のエロゲ感があるルートですね、シリアスなこの作品では差し色みたいに機能してる。恩田放哉の言葉が良い締めだったなと思います。
後々明かされることですが、心鈴の師匠は圭です。
なので実質圭ルートでしたね。
Ⅲ 真琴ルート
心鈴ルートより良かったです。結構刺さりました。
「青春の後始末」って感じで。大人になるとほぼ不可能に近いっすからね、未練たらたらの青春の処理。負債として残り続けるくせに温かくて大切でどうすりゃいいんだよという話。
大学生や大人の制服ディズニーなんてクソだと思う僕ですが、だからか真琴がすげえ可愛く感じられる。昔は普通で当たり前だった輝かしすぎる青春。大人の今、それを見つめるにはロールを用意しないと眩しすぎて不可能。演じてると思わないと顔を向けることだってできない。距離を取ることでしか近づけない。
かわいいねえ……。
手をつなぐシーン、そしてキボウについての回答、すべてが満足できる良いシーンでした。
Ⅲ
本筋です。面白かった。教師か芸術家かの選択で芸術家を選ぶルート。
恩田放哉との議論は名シーンの一つだし、美〈カリエス〉の饗宴? だったかは忘れましたが、『奔らせる』のは超わくわくしましたね。
そんなこんなで父が世界的芸術家の二人の対決ではない対比は最後まで続きます。
二章好きの僕ですが、生徒からの言葉もあったし納得ですね。
脇に逸れますが、やっぱり栗山くんの存在ってあってもなくてもいいよな……(心鈴ルートでいてくれてよかったとは思いましたが)
三章の分岐点は直哉が教師か芸術家かで、それにより心鈴と寧の勝負も関係性も変わります。上の個別では二人の仲はいい感じになりますが、本筋ではそんなことはなく残酷です。芸術家としての判断を寧に直哉は下します。
ここで話したいことは仲を取り持つことができた個別世界線です、ここじゃねえだろとも思いますが。
心鈴と寧、二人が芸術を求め、ゆえに軋轢が生まれ続けてしまう。才能、本物、偽物、美、壮大なものの戦いではあるし、家問題や因縁の話もあるし、どうやったらこの重くて手が届かないような場所にある糸は解けるのか……と見守りますが、その結び目がひどく幼稚で、且つ普遍的な感情でできているとわかり、解けます。憧れ。こういう解決は好きだなと思いますね……二人の重さがけっこうだったので目新しく感じましたが、今書いてみると特殊って感じもしないので、ただそういうのが好きなだけなんでしょうね。だからなんだよお前、っていう話ッス。
サクラノシリーズ、かなり血(芸術的な意味でも血縁的なつながりでも)が大事なのでお家騒動的なものは必然的なんだろうと思いますが、僕はお家騒動にほぼほぼ関心がなくそこはクリックが止まる部分ではありましたね。好き嫌いの話です、好き嫌いの話しかしてないブログなんですが。
Ⅳ
夏目圭の過去編です。満足です。
元々構想はあったと思いますが、後付けの枠組みの仲でこんなに整合性がとれて面白いものができるのか……とビビりましたね。
『サクラノ詩』しかり過去編に間違いはないです。泣きました。
Ⅴ
一番物議をかもしているところだと思います。
僕は超好きだというヒロイン、いわゆる推しキャラはいないので(強いて言うならルリヲですが)あるあるなフラストレーションはありませんが、それでもとてもいいシーンもやや不満なシーンもあり、かなり評価が難しいです。
■良い
・直哉と圭まわりのすべて
→完璧だと思います。行けよ、ヒーロー。
・長山香奈
→ここについても完璧だと思います。”来世”と”デブメガネ”。天才才人凡人について、本物偽物、詩からやってるのに面白つづきです。
・ムーア残念会から稟への挑戦権勝負提案まで
→ここは作中屈指のわくわくポイントだと思います。サクラノ詩キャラ登場しまくりでアツいし、誰もが直哉のことを考えているのが伝わってきてとても良い。
・後半急につく直哉ボイス
・幸福の王子の心臓をツバメに届かせるためにすべてを捧げたヒロインズたちの想い
・地獄の面倒を見る鬼
→麗華です。
・直哉の作品が燃えて圭の向日葵と同じサイズのキャンバスになる。
→『人』を描くようでかなりぐっときました。
・明石、トーマス
→ここは言うまでもないですね。
・劇伴! エンディング! エンディングの挿絵!
■微妙
・サクラノ詩ヒロインズのあっさり感。
→なんだかんだ一番の不満点はここかもです。雫が喋ったの「処女です」って言いに来たくらいしか記憶してないまである。いやいや、ならどこでがっつり会話すんだよ……って話ではありますが。さすがに里奈、稟はもっと喋りますが、一番喋って且つ印象的だったのは優美だったっすね。デイトレで億動かしてるみたいな枝葉が一番印象に残ってる現状。
台詞数が印象を決定づけるものではないと思います、だからこそ物足りなかったですね。
・直哉VS稟
→稟の想いについてもう少し欲しかった。
まあ稟的には直哉が再び筆をとってくれただけでもう満足なのかもしれませんが。
・稟への挑戦権勝負
→観客がいての即興絵画。まさに長山が活躍するために設えられた舞台(こういう勝負以外に長山が勝てそうな条件がなさそう)なので長山については最高なのですが、氷川がどうもあっさり負けてしまいすぎたかなあと。天才性ゆえに負けたというのは説得材料として確かですが、もうすこし天才性で食い下がってほしかったですね。
・神秘的な力、オカルトチックな手段
→これはかなり好みの問題だと思います。
総括
『すば日々』『サクラノ詩』『サクラノ刻』をやって思うことは、よくここまでのテーマをエロゲの文脈で伝えることができるなあということです。
すば日々はエロシーンも特殊性癖も幸福に生きよ!で丸め込みましたし、サクラノシリーズに至っては『人生』だから当たり前にそれはあるし、エロシーンいらねえよw とかいう軟弱者を弾き飛ばしてくれる。
というのは冗談風の本音ですが、実際、哲学的なものをキャラに言わせていきいき動いて魅力的に見せるって、そうそうできることじゃないだろ……と思います。
それでいて、いや、きっとすかぢさんの好みも感じますが、シリアスなストーリーラインのなかで少年漫画的エンタメ対決を用意する(すば日々のともさねくんの章や人格との対決や、刻のライブペインティングバトル)あたり、これもわかりやすさと爽快感の要因になってるなと思いました。
種類的には異なりますが、刻でも神絵師のくだりや引きこもりがエロゲ作るようになるくだりは題材的にはとても軽いし、なんというか、
――全部盛りしてんだよな、オタクを。
それが一つの作品として高クオリティで成立するのを目にする度、とんでもなさを痛感します。
ずっと待っていたゲームをプレイでき、マジで幸福な時間でした。
俺も””””奔って””””いいか?
都落ち県某所、初回特典ドラマCDのレズシーンを聞きながら。